瑞樹「片桐早苗はシメられない」
ガヤガヤ ワイワイ 「お客様、お一人様ですか?」 「いえ、奥で待ち合わせで……」
カッ カッ 「……ふぅ」 「時間は……オーケー、ぴったりね。まったく、人遣い荒いんだから」 「えぇっと」
「……相変わらずわっかりやすいわね」 早苗「あ、みずきっちゃーん!! こっちこっちぃ!!」 瑞樹「うるさぁい! 目ぇ合ったんだからわかってるわ!」
「ご注文お決まりでしょうか?」 早苗「あー、あたし生追加ね。あと~……これとこれとこれ!」 瑞樹「私も生ビール一つお願いします。 それと『ピリッと生タコのわさび漬け』、『柔らかはふはふ!縞ほっけの炙り焼き』と…… あとは『クセになる!美容と健康におすすめのナンコツぽりぽり揚げ』を」 早苗「………」
「かしこまりました」 早苗「……」 瑞樹「……なによぅ。いつもこのくらい頼んでるでしょ」 早苗「や、おねえさん滑舌いいっすねー。昔なんかやってたんすか?」 瑞樹「えぇそうね、むか……昔でもないけど! 地方局でアナウンサーを少々。おかげで声には自信アリよ」 瑞樹「人にモノを伝えるときはわかりやすく。省かず丁寧に、それでいて明瞭に!」 瑞樹「ダラけきってるどこかの誰かさんとは違うのよ」フフン 早苗「……相変わらず妙に几帳面よねー」 瑞樹「『妙に』ってなによ! 『妙に』って!」
「生ビール二本になります」 早苗「うはぁ、きたきたっ! この黄金色があたしをおかしくさせるぅ、あいらぶびあ~」 瑞樹「大声出さない……」 早苗「んじゃまっ、メンツも揃ったことだし」 瑞樹「それは私のことよね? ビールじゃないわよね?」 早苗「えぇと……あれ……何回目だっけ?」 瑞樹「えっ? あぁ、確か……」 瑞樹「十三回目、かしらね」 早苗「ホント細かいこといちいち覚えてらっしゃって」 瑞樹「十三回目で終了かしらね」 早苗「なぁああんもう冗談だって! それじゃみずきっちゃん、音頭よろしく!」
瑞樹「こほんっ」 瑞樹「今宵もオトナの美女二人、若い子には負けないわ……飲んだら呑みつくす、呑むったら呑む!」 瑞樹「互いの無事と武運を祈って――第十三回、『苗樹の会』! 始めるわよ?」 瑞樹「………」 早苗「ぷっっふ!!!」 瑞樹「だっ、どうして笑うのよそこでぇ!」 早苗「あーダメだ毎回吹くのよこれっ、あはは、『苗樹の会』! 『苗樹』って! あははははっ!」ゲラゲラ 瑞樹「……良いネーミングじゃないのよぅ」
「タコわさとホッケとナンコツになります」 早苗「店員の子も略してるわねー」 瑞樹「うっさい」 早苗「かんぱいっ!」 瑞樹「かんぱい♪」 ガチャンッ 早苗「……んぐんぐ、ぷっはぁあああ!! あ゛ぁ゛~~生き返る! あたしの棺桶にはコレ入れといて!」 瑞樹「毎回それがなければまだマシだと思うわ」 早苗「にしても、もう十三回目かぁ。……早いわねぇ、月日が経つのは」 瑞樹「ほんとにそうね……」ゴクゴク
早苗「ねえ、覚えてる?」ポリポリ 早苗「あのお祭りの時は、まだあんたも『早苗さん』だなんて呼んでてさ……今考えると鳥肌モンだわね」 瑞樹「介抱した相手と意気投合するなんてこともあるのね。世界は広いわ」 早苗「あっれー? ほたるちゃん病気だったっけ?」 瑞樹「さなえちゃんがこっぴどく催しちゃって」 早苗「そうそう、あたしってばおびただしい……吐いてないわ!」 瑞樹「……」 早苗「……吐いてないわよね? ね?」 瑞樹「シモの方よ」 早苗「それは嘘でしょ!?」
瑞樹「それと言い忘れてたけど……『みずきっちゃん』っていうのはやめなさい」 早苗「えぇ~? いいじゃないの、かわいい~」 瑞樹「……」 早苗「あ、わかった! 小学校の頃そう呼ばれて男子にからかわれてたとかでしょ! 当たった!」 早苗「今思えばあの頃がみずきっちゃんのピークだったのねぇ」 瑞樹「思い出しちゃうの」 早苗「ん?」 瑞樹「局にいた頃は、周りからよくそう呼ばれてたから」 早苗「………」 瑞樹「『みずきっちゃん』はもう、捨てたのよ」
早苗「……捨てるってのはさ、なんか違くない?」 瑞樹「まあ、そうかもしれないわね。あの頃のことは間違いなく私の中で糧になってるし」 瑞樹「例えようもなく、かけがえのない想い出。だから言葉の綾よ」 早苗「……うん」 瑞樹「でも、私のピークは今だから」 早苗「……」 瑞樹「今、私は本当のわたしでいられてる気がする。過去はやっぱり、過去なのよ」 早苗「……そして未来は確実に足音を立ててやってくる、と。ナンコツあげる」 瑞樹「そうよ。だからこうしてそれに向けて対策を」ポリポリ 瑞樹「余計なお世話よ。おいひい」ポリポリ
瑞樹「それで?」 早苗「へっ?」 瑞樹「早苗が急に呼び出すなんてめったにないことじゃない」 瑞樹「何か話があるんじゃないの?」 早苗「瑞樹……」 瑞樹「『苗樹の会』はいつも事前予約制だもの」 早苗「……」 瑞樹「笑わないの?」 早苗「人の図星ついて、笑えないのわかってるくせに。タチが悪いわね」 瑞樹「うふふ、よく言われるわ。最近は言われないけど」
早苗「こういうこと、というか、私が気軽に相談とかできるのって瑞樹くらいだし……」 瑞樹「そうかしら? まあ、そういう相手に選んでもらえたのは素直に……ちょっと、うれしいわね」 瑞樹「ふふっ」 早苗「まあ安パイっていうか」 瑞樹「ぶん殴るぞ♪」 早苗「話すからタコわさも食べていい?」 瑞樹「立場考えなさいよ!」 早苗「もぐっ」 瑞樹「食べてるし……」
早苗「あたしってこのままアイドル続けてていいのかなぁって」 早苗「……」モグモグ 瑞樹「……」 瑞樹「思いのほかヘビーじゃないの……」
瑞樹「………」 早苗「………」 瑞樹「ちょっと前までは彼が来たってダラけたままだったわよね」 早苗「えっ、え、そう? かしら? えっ、ていうか嘘?」アセアセ
「どうかなさいましたか!?」 瑞樹「ほんっっとにもう信じられへん大声出すなドアホ!!! ……あ、うふふ♪ 何でもないですわっ、すみませ~ん」 早苗「ぅなゅぅう……にぃいい……」 瑞樹「二十八歳の大人が座布団に顔うずめてんじゃないわよ」 早苗「むりむり心臓やばいはずかしい無理」 瑞樹「謝れ」 早苗「すみません……」 瑞樹「私じゃない。店員さんに」 瑞樹「もうしません」 早苗「もうしません……」
早苗「」バクバクバクバリムシャモグ 瑞樹「きゃぁああちょっ!! なんで全部食べるのよ信じられない警察呼んで!!!」 早苗「ちひょふほははふふれ!!」 瑞樹「誰が『地方のアナ崩れ』よイテもうたるぞこのセルライトめぇえええ」ググググ 早苗「ぬぎぎぎぎぃいっ」グググググ
「ほかのお客様のご迷惑となりますので……」 瑞樹「……」 早苗「……」
早苗「うううぅぅなんでこんなにあっついのどうしてよあたし」 瑞樹「乙女ねぇ」 早苗「ダメこっち見たら絶交! 違うのよ! 違うんだから見るなー!!」カァアアア 瑞樹「だから思いっきり抱き締めた座布団に顔うずめられたら見えるものも見えないじゃない」 早苗「……がないじゃない」 瑞樹「?」 早苗「す、すすっ、すきな男の子みせられたら、しょうがないじゃないっ……!!」
もうかわいいぞおい!
その気があるとは思ってたが、これ見て確信したわ 俺、年上のちょっとポンコツなお姉さんタイプがドストライクなんだ・・・
>>45
早苗さんかわいい!
あーもうなんだこのめんどくさかわいいおねーさんは
抱きしめなきゃ(使命感)
痴 女 的 行 為 大 歓 迎
早苗「……っ」 瑞樹「それが余計だって言ってるのよ。気づかないの?」 早苗「……何ですって?」 瑞樹「いろいろ話をしたけれど、どうやら相当に重症みたいだから」 瑞樹「下手に小手先とか駆け引きとか試すみたいなマネはやめてわかりやすく言ってあげるけど」 瑞樹「今のあなた、ポンコツよ?」 早苗「な……んて?」
瑞樹「耳まで遠くなった? さすがにそっちまでは面倒見きれないわよ、私は医者じゃなくてアイドルだから」 早苗「……ハッ。女子レスラーの間違いじゃないの? 煽りっぷりだけは褒めてあげるわ。ひょっとしてそっちが天職だったとか?」 瑞樹「やだ、眉間の小じわまでよ~く見えるわ。今この瞬間にも老化が進んでるのかしら」 早苗「だとしたら今この瞬間にも多大なストレスを受けてるせいね。姑のお小言みたい」 瑞樹「メンタル弱いわよ元婦警」 早苗「声低いわね元アナウンサー」 瑞樹「アホ」 早苗「ブス」 瑞樹「………」 早苗「………」
瑞樹「良かった、心配してたのよ? こんなことになって後悔してるんじゃないかって」 瑞樹「私は安パイなんかじゃないわ。むしろ最悪の人選したわよ、あなた」 早苗「……意外に細かくて几帳面で、意外に根に持つタイプで」 早苗「そして意外にあたしと同じくらい血の気が多いのが、川島瑞樹って女だったわね」 瑞樹「ふふっ。……私が追加で飲むなら、早苗も飲むんでしょう?」グッ 早苗「当然」グッ ガチャンッ! 瑞樹「飲み比べと行きましょうか。ここからが――」 瑞樹「本番開始よ」
ゴクゴクゴクッ! ゴトンッ!! ゴクゴクゴクゴクゴク!! 「お、おい、あそこすごいぞ。さっきトイレ行ったときに見かけて――」 「ホントかよ!」「何杯もだよ、止まらないんだ!」 ゴクゴクッ ゴトンッ!! 瑞樹「っはぁっ! 周りのために気をかけたり心配してやることはあっても」 ゴクゴクゴクゴク 瑞樹「あなた自身のことでウジウジしてるなんて、どういう風の吹き回し……?」
瑞樹「やるかやらないかで悩んでるなら、喜んで背中を押すわ」 瑞樹「でもあなたはそうじゃない」 早苗「な……」 瑞樹「悩んでるんじゃなくて、進まない理由を探してるだけ」 瑞樹「後ろを向いて突っ立ってるだけよ」 早苗「わけわかんないっ」 瑞樹「でしょうね」 早苗「何が言いたいのよ……!」 瑞樹「今の早苗は早苗じゃない」 早苗「っ」 瑞樹「私の知ってる早苗は……こんな簡単なことで塞ぎ込まないはずよ」
早苗「……ぐ、ぅううっ……!!」 瑞樹「……」 瑞樹「でも、それでも」 瑞樹「だからこそ光輝ける女を、私は一人知ってる」 瑞樹「その壁から逃げるんじゃなくて、立ち向かって、ぶち壊して」 瑞樹「どこまでも前に突き進んでいける女をね」 早苗「……それ……って……」 瑞樹「ねえ早苗。もし私の物言いが上から目線だって思ってるなら、全く逆よ」 瑞樹「私ね」
瑞樹「ずっと前からあなたに憧れてた」 早苗「へ……?」 瑞樹「……」 早苗「みず、き?」
早苗「え……?」 瑞樹「ねえ、覚えてる?」 瑞樹「あのお祭りの時は、初対面ではなかったわ。その前にもちろん顔合わせもしてた」 瑞樹「でも、私たちが親しくなった『最初』は、間違いなくあの時だった……」
――だ、大丈夫ですか? 「んぅ~……」
――ほら、ケガしたら大変ですから、ちゃんとつかまって…… 「あ~ごめんね~……肩借りる……」 ――ええ、どうぞ 「よっこらしょ……っと」 ――ん…… 「ちくしょー! あたしとしたことが呑み潰れちゃったわぁ……んにゅぅ~、お祭り楽しすぎぃ……」グラグラ ――も、もう少し体重をかけても平気ですよ、早苗さん 「………」 ――早苗さん?
――そう? そう言ってもらえると……ちょっと、嬉しいわね 「余計にあたしなんかよりベテランってことじゃないの。似たような業界っぽいし。こっちに来たのは事情があるの?」 ――……… 「あー、あたし、マズった? ……わよね」 ――いえ、そんなこと。……挑戦したかったから、かしら? あの世界であのまま終わるのは悔しかったから 「……へー、なるほどねぇ」 「で、その結果は?」 ――大成功よ。お生憎様 「でしょーねー、だから聞いたのよ、あはは!」 ――ふふっ、ふふふっ!
――……でも 「んー?」 ――たまに……たまにね。思うことがあるの 「うん……」 ――答えはわかりきってるのに、もう一人の自分がからかうみたいに聞いてくるのよ ――『お前が進んできた道は正しいのか』って 「………」 ――あの頃に戻りたい、なんて感傷じゃなくてね ――ただ、今の私は、あの時憧れた自分になれているのかって……不意に確かめたくなるの
「……」 ――自分に対する猜疑心っていうか、嗜虐心というか……上手く言えないわ。変ね、なんだか ――ねえ……早苗も、違う世界からこっちに来たのでしょ? ――そういう風に思うことって、ない……?
「ないわね。ありえない」 ――え……!? 「んー、だって色々考えても意味ないっていうか、結局答えは一つだし?」 「あたしがやりたいって思ったんだから、正しいに決まってるじゃない」
――…… 「どうしたのよ、黙り込んで」 ――あなた、大物ね…… 「うっひっひ! じゃあ、そんな大物からアドバイスよ。いいこと? みずきっちゃん」 ――な、なにその呼び方っ 「後ろを振り返っても何も転がっちゃいないわ。つまらないだけ。あたしたちは今を生きてるの」 「過去はやっぱり、過去なのよ」 ――……早苗
「人生、楽しんだもの勝ちでしょうっ♪」
――……… ――……わかったわ……わかった、けど 「ん?」 ――その『みずきっちゃん』って呼び方は認められないわ、訂正しなさいっ! 「え? って、ちょっフザけっ、揺らさないでよ、吐くっ、吐くわーーっ!! いいじゃないの可愛いじゃないの!!」 ――背中のあたりがムズがゆくなるのよあなたに言われると余計にね~~!! 「知らないわよっやめっ、やめてみずきっちゃんタイホするわよこの若作り女ーーー!!」 ――いいからさっさと訂正しなさい全国にリポートしてやるわよこのロリ年増~~~っ!!!
瑞樹「早苗、初恋なんでしょ?」 早苗「―――!!?」 早苗「えっ、いや何言ってっ、いやねぇっまったく……あたし、瑞樹っ」 早苗「あたしね……」 早苗「……バカ、よね……あたし」 瑞樹「あなたがどんなに自分を貶めても、私はあなたに幻滅しない」 早苗「っ……」 瑞樹「私があなたを許すわ。誰よりも早苗を見てきた私が」 瑞樹「……理想くらい押しつけるわよ。だってあなたはアイドルで」 瑞樹「私はあなたのファンなんだもの」 早苗「……みず、き」
瑞樹「でもね、何度も言っちゃったけど……その、気にしなくていいのよ」 早苗「?」 瑞樹「だから……私の理想がどうこうっていうのは……」 早苗「……」 瑞樹「……」 早苗「ぷっ……ふふっ」 瑞樹「なっ、早苗っ?」 早苗「うふふっ……あはは、どっち、あっははっ、どっちなのよもうっ……あはははは!」 瑞樹「やっ、なに、なんで笑うのよもう!」 早苗「いやー、うふふっ、ごめんごめん、ふふっ……失礼しちゃったわね、悪気はなくって……うふふっ」 瑞樹「こっちは真剣だっていうのに……」
早苗「やっぱり……なんだか笑っちゃうわ」 瑞樹「奇遇ね。私も同じ気分よ。けど方向は真逆だわ」 瑞樹「あなたは『私の早苗』を聞いて笑うけど、私は今のあなたを見て笑うの」 早苗「瑞樹――」 瑞樹「あなたの悩み? 世の中にはどうにもならないことがある? そういうことに気づいた?」 瑞樹「ちゃんちゃらおかしいわよっ……!」 瑞樹「あなたは最初から、アイドルになった時からっ、周りが決めたルールなんて必要としてなかった!」 瑞樹「それに従うこともなかった、従うとしたらあなたの中にある信念、ただそれだけだった!!」 早苗「!!」
瑞樹「ねえ早苗」 瑞樹「私たちは見た目も性格も、考え方も真反対で」 瑞樹「時にはアイドルとしてのやり方だってぶつかってきたかもしれないけど」 瑞樹「……親友、でしょ?」
早苗「………」 早苗「そう、ね……」 早苗「平気でこんなに、クサいセリフ吐けちゃうのも、川島瑞樹って、女だったわね……」 瑞樹「……ふん、余計なお世話よ」 早苗「わかってる……だからこそ」 早苗「こんなに嬉しいのね……」 早苗「ふ、ふふっ……」 瑞樹「……」 早苗「……ぅ」 早苗「~~っ、ぅっ……く、ぅうううっ……」
早苗「ぁ……ぁあっ……」 瑞樹「やらないうちから心配なんて許さないわ」 瑞樹「行け、早苗」 瑞樹「周りなんか気にするな」 早苗「ぁあああっ……!」 瑞樹「ナメんじゃないわよ、あなた一人の世話くらい」 瑞樹「こっちは……とっくに『最初』の時から、引き受けてるんだから」 早苗「うぁあああああっ……!!!」
早苗「………」 瑞樹「………」 早苗「……ねえ、あのさ」 瑞樹「なに?」 早苗「えぇと、その」 早苗「……タヌキ女ってのは、改めるわ」 瑞樹「また随分と前の話題を……」 早苗「やっぱりあたし」 早苗「あんたのこと、みずきっちゃんって呼びたい」 瑞樹「……」
瑞樹「……はぁ、わかったわよ」 早苗「………」 瑞樹「そこでそんな満面の笑みを浮かべないの」 早苗「うひひっ、よしよし、そうこなくっちゃね!」 瑞樹「現金ね、まったく……」 瑞樹「おまけに物好きで頑固者。苦労させられるわけだわ」 早苗「二番目と三番目は、あんたに言われたくないわね。たった一人の酒臭い女に、真剣にどこまでも付き合っちゃって」
早苗「……あんたくらいしかいないわよ、そんな奴」 瑞樹「随分と殊勝ね。もしかしてまだ治ってないのかしら」 早苗「色々なお礼としてナンコツおごったげるわ。そういう話だったでしょ?」 瑞樹「最高ね、あなた」 早苗「……結局一番目も当たってんじゃないのよ」 瑞樹「……ぷっ」 早苗「ふふっ」
早苗「あはっ、あっははははは!」 瑞樹「ふふっ、うふふっ!」 早苗「あ~あ……ほんっと……最高だわね……」 瑞樹「……」 瑞樹「……ねえ、早苗」 早苗「うん?」 瑞樹「顔グッチャグチャだから化粧直してきたほうがいいわよ」 早苗「このタイミングでそういうこと言う!?」
早苗「………」 早苗「……でも」 早苗「ありがと」 瑞樹「……」 瑞樹「どういたしまして」
タッタッタッ 瑞樹「……」 瑞樹「………ふぅ」 瑞樹「……」
――……どう? オッケーよね? ――え~いいじゃないのぉ、さっきみんなで撮ったじゃない、だったら私と二人で撮るのも一緒でしょう? ――全然違う? もう、細かいこと気にしないの! 私とだったら平気でしょ? ――……早苗じゃないんだし
瑞樹「ほんと、私にとって実入りなんてあったもんじゃないわ……まったくぅ……」 瑞樹「んっ、んっ……」 瑞樹「ぷはぁっ」 瑞樹「……」 瑞樹「『私って何なのかしら』……?」 瑞樹「決まってるじゃない、アイツの親友よ」
『やっぱりあたし』 『あんたのこと……みずきっちゃんって呼びたい』 瑞樹「あんな一言くらいで、どうしようもなく嬉しくなって……」 『いいこと? みずきっちゃん』 瑞樹「背中がむずがゆくなるくらい、温かい気持ちにさせられて」 『いいじゃないの、かわいい~』 瑞樹「過去のことを持ち出してまで、照れ隠しして……」
『……でも』 『ありがと』 瑞樹「……本音を見せられれば、それはまぁ、やった甲斐もあったかなぁって……」 瑞樹「……」 瑞樹「これって、ツンデレってやつなのかしらね」 瑞樹「アイドルミズキ、新境地……」
―――――――――――――――――― ――――――――――― ――――― タッタッタッタッ!! 早苗「おぉ~い! みずきっちゃーーーーん!! お待たせーーー!!」 瑞樹「うるさぁい! そんなに叫ばなくたって聞こえてるわよ!」 瑞樹「あんまりそう呼ばれるとありがたみがなくなるじゃない……」 早苗「は? 何の話よ」 瑞樹「こ、こっちの話っ」 早苗「ふぃー食った食った、呑んだ呑んだ~♪」 瑞樹「ふぅ……外、けっこう冷えるわね。早く行きましょうか」
瑞樹「もちろん言いふらしたりなんかしないわ。それに、取り立てて気にするようなこと?」 早苗「みずき……」 瑞樹「私はあなたに幻滅しないって言ったじゃない。何を今さら」 早苗「そ、そうよねっ」 早苗「あんたは……そういうやつよね!」 早苗「んふふっ、あたしってば、ホント良いダチ持ったもんだわ! サイコーの気分! これからも順風満帆ね!」 瑞樹「たとえ私との呑み比べに負けたとしても」 早苗「」
早苗「……な、なにかあったの?」 瑞樹「……」 瑞樹「さっきのお店」 瑞樹「合コンやってたんですって」 早苗「………」
早苗「だって、あたしにはそんなもの関係ない」 瑞樹「……」 早苗「あたしの道を邪魔するってんなら、全力でねじ伏せてやるだけよ」 瑞樹「……」 瑞樹「……ふふっ」
イジられ早苗さんとイジる瑞樹お姉さんが書きたかった と思ったら予想以上に長くなってしまった。読んでくださった方ありがとうございました
乙 良かった
乙おつ